九州の正教会

日本ハリストス正教会のグレゴリー神父です。2019年から九州全域を担当しています。

ソウルの群衆雪崩事故に思う

一昨日は人吉ハリストス正教会で聖体礼儀を執り行いました。


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九州の巡回は前任者からの引継ぎで、毎月第一日曜日に福岡、第二に熊本、第三に人吉、第四に鹿児島のローテーションで各教会を回っています。

第五日曜日は当然ながらある月とない月があるので、予備日として人吉で祈祷しています。あまり人は来ませんが…

 

先週、夏の間に草ぼうぼうになってしまった人吉教会の境内地を、シルバー人材センターの方たちに草刈りしてもらいましたので、聖堂の窓から外を見ると気分爽快です。

綺麗になった人吉教会の境内地

さて、私のこのブログは一日のアクセス数が多い日でも50人程度です。田舎の神父の日常的な話なんて、あまり話題性もないし、特別に宣伝もしていませんので(アフィリエイト収入はありません)、まあそんなものかと思っているのですが、日曜日は朝からアクセス数が多くて、一日に200人を超えました。

昨日も日曜日ほどではないとはいえ、100人超えです。

最後に投稿したのは先週の金曜日で、しかも有名でないロシアの作曲家の話でしたので、何がそんなにバズるのかと思って調べてみたら、1年以上も前の昨年7月の投稿にアクセスが集中していることが分かりました。

明石歩道橋事故から20年経ったという投稿です。

 

frgregory.hatenablog.com

 

この事故はいわゆる群衆雪崩と呼ばれる現象で、9人の子どもたちが亡くなる痛ましいものでした。大人の死者は2人でしたが、うち1人は日本正教会の信徒で、見ず知らずの赤ちゃんを身を挺して助け、ご自分は亡くなったことを投稿で紹介しています。

 

そこですぐ、先週の土曜日にソウルで発生した群衆雪崩事故の報道を見て、いろいろ検索した方たちが、私のブログもご覧になったのだなと気づきました。

 

死者数154人という報道を見て、そのあまりの多さに、私は当初周囲の建物に火災が発生して逃げ遅れたか、橋などの建造物が人の重さで崩落したかのどちらかだと思いました。

わが国では多くの人が普段、すし詰めの満員電車を経験しているので(この辺では満員電車どころか車の渋滞すらありませんが)、人間が密集しただけで、そんなにたくさんの人が亡くなるとは私には想像がつかなかったのです。

しかも、報道で映った事故現場は、よほど多くの人が通る大きな道かと思ったら、渋谷のスペイン坂のような路地でした。

 

しかし、狭い道だったゆえにかえって人が集中し、事故につながったようです。20年前の明石の歩道橋と同じシチュエーションです。

報道では18㎡の範囲に約300人が集中し、人が6重にも7重にも折り重なる状態となって多数の死者につながったとのことでした。

立ったまま絶命した人も少なくないそうです。

私たちは満員電車を経験していると書きましたが、どんな混んでいる電車でも1㎡に6人程度だそうですから、想像を絶する密集度だと思いました。

 

たまたま7月に行った五島で、明治新政府によるカトリック信徒迫害の場所を見に行きました。牢屋の窄殉教地では6坪(約20㎡)の牢に200人もの信徒が監禁され、うち42人が亡くなりました。跡地に建っている記念聖堂には床の上に当時の牢の広さを示す線が引いてあり、こんな狭い場所にと驚きました。しかし、今回の事故は密集度においても死亡率においてもけた違いです。

五島・牢屋の窄殉教者記念聖堂

 

frgregory.hatenablog.com

 

しかもキリシタン迫害のように人為的に起こされたものではなく、今回の事故は「たまたま人が集まった」という偶然、つまり「犯人は誰か」を特定することは不可能なことが一層悲劇的です。

 

過去に人が集まったことにない場所だったならともかく、梨泰院はソウルでも有数の繁華街であり、毎年ハロウィーンで若者が集まる場所とのこと。わが国の渋谷や原宿に該当する街でしょうか。

人がたくさん集まると初めから分かっていて、警備の警察官の人数は過去より少なかったそうですから、まさに行政の怠慢による人災としか言いようがありません。

わが国では明石歩道橋事故を教訓に、「群集警備」の概念が見直され、歩行者の動線の一方通行化などが当たり前に行われるようになっています。

今回の事故も前から来る人で遮られないように、歩行者を一方通行にしていれば何でもなかったように思いますが、後の祭りです。

 

こういう出来事が起こるとすぐ「そもそも、そんなに人が集まるところに行く方が悪い」という人が現れるのですが、はっきり言ってそんな批判は後出しジャンケンのようなものです。およそイベントというものは自分に関心があれば行くし、関心がなければ行きません。要するに個人の価値観の問題ですから「そこに行かなければ良い」という批判は全く事故防止の問題解決になりません。「車にはねられたくなければ外に出なければ良い」というのと一緒で、ナンセンスです。

韓国は北朝鮮との関係もあり、日本以上に非常時の危機管理に敏感な国だと私は認識しています。今回失われた154人もの若者の尊い命を教訓に、今後は行政の防災安全対策にもっと万全を期してほしいと思いました。