昨日、3月10日は1945年の東京大空襲で、10万人を超える東京都民が亡くなった日です。
太平洋戦争は1937年の日中開戦、つまり日本の中国への軍事侵攻が発端ですが、為政者が始めた戦争に多くの一般市民は責任がありません。よって彼らが攻撃対象とされ、いくら死んでも良いということにはなりません。
つまり、戦争の最大の犠牲者はいつも罪なき一般市民なのです。この度のウクライナでの戦争でも同じです。
そこで東京大空襲の日に合わせて、戦争反対と世界平和の希求についての自教会の考えについて、ウェブサイトに掲載しました。
#戦争反対#戦争反対нет_войне#戦争反対に如何なる理由も必要無いhttps://t.co/El9XrAOvej
— 九州の正教会 日本ハリストス正教会九州管区 (@ocjkyushu) 2022年3月11日
さて、今日は人吉での大斎初週祈祷の最終日。
大斎第一金曜日の先備聖体礼儀に続いて「糖飯の祝福」を行うことが正教会の伝統です。
糖飯という用語は私の投稿の中に何度も出てきていますが、定義としては「茹でた穀物を甘く味付けしたもの」です。呼び名としてはギリシャ語の「コリヴァ」がほぼ世界共通となっています。
わが国ではもち米を炊いておこわのような食感にすることが多いですが、海外では概ね麦を用いた粥状のものです。
飾り付けのルールは特にありませんが、ドライフルーツやナッツを用いて十字架を描けば十分です。しかしわが国では、昔はドライフルーツなどが入手困難だったせいか、金平糖などの菓子類をまぶすことが多いようです。
糖飯は、永眠者を記憶する祈りで必須の食べ物ですが、ルーマニアやセルビアなど、バルカン諸国の人たちは降誕祭などの大祭の時にも作ってきますので、必ずしも弔事だけの食べ物とは言えません。
しかし、本来の由来は「斎の食品」です。
糖飯はユリアヌス帝(在位361-363年)の治世下のコンスタンチノープルで誕生しました。
ユリアヌス帝はローマ皇帝で初めてキリスト教を公認したコンスタンティヌス大帝(在位324-337年)の甥です。コンスタンティヌスによって、キリスト教は迫害の対象から事実上の国教へと180度転換したのですが、ユリアヌスはそれに反して反キリスト教的政策を取ったため、歴史家から「背教者」と呼ばれています。
ある年(362年か363年)の大斎が始まった時、ユリアヌスは異教の偶像に備えた動物の生き血をコンスタンチノープルの食品市場に散布させました。これは、キリスト教会が大斎で動物性の食品を断つことへの妨害工作です。
まさに信仰心に欠けた為政者の恣意的な市民生活への介入です。
すると当時のコンスタンチノープル大主教の夢に、殉教者フェオドル・ティロン(ティロのテオドル)が現れました。
フェオドルはローマの軍人で、4世紀の初めの禁教時代にマクシミアヌス帝(在位286-305年)によって処刑された人物です。
フェオドルは各家庭に備蓄されている麦を茹でて甘く味付けし、それを食べて飢えをしのぎ、斎を守るようにと告げました。これが糖飯の起源です。
正教会ではこの出来事を記念して、大斎第一土曜日にフェオドル・ティロンを記憶し、また前日の金曜日の先備聖体礼儀の最後に、彼のお告げで生まれた糖飯を祝福することになっているのです。
そこで私も妻が用意した糖飯を祝福しました。
糖飯は永眠者を記憶する祈りで必須と書きましたが、今日は3月11日。東日本大震災から11年となる日です。
偶然ですが、2011年3月11日も今年と同じく、大斎第一週の金曜日でした。震源から遠く離れた前任地でも揺れは大きく、停電と電車の不通のため、祈祷後に教会に残っていて帰宅できなくなった信徒をお泊めした記憶があります。
東日本大震災では2万人近い方たちが亡くなりましたが、東北在住の信徒も相当数含まれています。
また今はウクライナで多くの兄弟姉妹が犠牲になっています。
自然災害と戦争という違いはあっても、それまでの平和な生活が一瞬で奪われ、「生きたいのに生きられなかった」理不尽を強いられたという意味で、彼らは共通しています。
そこで、東日本大震災の犠牲者に加え、ウクライナでの戦禍の犠牲者も共に記憶してリティヤ(永眠者祈祷)を献じました。
手前は祝福した糖飯
信仰心に欠けた為政者の恣意的な市民生活への介入と書きましたが、それこそ今の戦争も全く同じです。
震災と戦争とで理不尽に命を奪われた人々に神の憐みがあるように、そして邪悪な戦争が一刻も早くなくなり、平和が戻るように祈りました。