九州の正教会

日本ハリストス正教会のグレゴリー神父です。2019年から九州全域を担当しています。

十二福音の読み ~正教会流「ヨハネ受難曲」

いよいよ復活祭が近づいてきましたので、今日は妻がクリーチを作りました。今日焼いたものに、明日トッピングをする予定です。

クリーチとは復活祭の時に食される菓子パンのロシア語名です。セルビアルーマニアなど、バルカン諸国ではホールケーキのような形状ですが、ロシアではこのように円筒形に作られます。

私の前任地のような大きな教会ですと、婦人会や業者がたくさん作って教会で販売したりしますが、現任地は小教会ですので、妻がミニサイズのものを作って参祷者にプレゼントしています。

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焼き上がったクリーチ

 

さて、今日は夕刻からイエスの受難を記憶する聖大金曜日の早課を行います。教会の一日は日没から始まりますので、木曜日の日没が金曜日の祈りの開始となるわけです。

その意味ではイエスの受難の時も、機密の晩餐(一般にいう最後の晩餐)、イエスの逮捕と裁判、死刑判決とゴルゴタの丘への道、十字架上の苦しみと死、葬り、という一連の出来事が金曜日の一日で起きたということになります。

 

教会ではこれを記憶して、聖大金曜日の早課でイエスの受難について書かれた四福音書の記述を12に分割して司祭が朗読します。これを「十二福音の読み」(Twelve Gospels Reading)といいます。

具体的な朗読箇所は、ヨハネ伝13章31節から19章42節まで(機密の晩餐でイエスが弟子たちに「互いに愛し合いなさい」と新しい掟を与える場面からイエスの葬りまで)を5分割、マタイ伝26章57節から27章66節まで(大祭司カイアファの尋問から、イエスの墓に番兵を置くまで)を4分割、マルコ伝15章16節から47節まで(死刑判決を受けたイエスが侮辱を受ける場面からイエスの葬りまで)を2分割、ルカ伝は23章32節から49節まで(十字架上でのイエスと死刑囚との会話からイエスの死まで)の一箇所です。

つまり、イエスの受難の一部始終を、ヨハネによる福音書の記述を中心に、他の共観福音書の記述を補足しながら詳細に振り返るのが、この典礼の趣旨です。

 

さて、キリスト教会では正教会だけでなく西方教会も、古くから受難週間(西方教会では聖週間)の祈祷において、主の受難物語を朗読や聖歌の形で取り入れてきました。特にヨーロッパでは中世・ルネサンス以降、教会の典礼からさらに進んだ「受難劇」や、音楽作品としての「受難曲」といったスタイルが形成されました。

その受難曲は18世紀にオラトリオ形式(演技を伴わない歌劇形式)で頂点を極めます。最も有名なのは、何といってもJ・S・バッハの「マタイ受難曲」と「ヨハネ受難曲」の二作品でしょう。

添付したのは、バッハ・コレギウム・ジャパンの昨年の「ヨハネ受難曲」の公演です。コロナ禍のため無観客・少人数演奏でしたが、緊張感のある素晴らしい名演だと思います。ちなみに、私自身は全ての作曲家の中でバッハが一番好きです。


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そういう意味では私たちの十二福音の読みは、正教会流の「ヨハネ受難曲」と言えるかもしれません。

 

時間が長く、さらに年に一回しかない祈祷なので、途中で分からなくならないよう、聖堂に行く前に司祭館で妻とリハーサル(?)しました。演奏会ならゲネプロというやつです。

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祈祷の前にリハーサル

実際の祈祷は2時間15分かかりました。それこそバッハのヨハネ受難曲の演奏時間といい勝負です。

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福音書の朗読

17時に祈祷を始めた時はまだ外は明るかったのですが、終わった時は暗くなっていました。大斎の祈祷は聖堂の照明を消して、燭台のロウソクの光だけで行うので、最後の方は祈祷書の字が見えなくて難儀しました。しかし、まさに主の十字架上の死と葬りを象っているようでした。

 


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明日の祈祷では主が十字架から降ろされ、墓に葬られたことを記憶します。