九州の正教会

日本ハリストス正教会のグレゴリー神父です。熊本県人吉市から情報発信しています。

正教勝利の主日~イコンと偶像とは意味が違う

今日は人吉ハリストス正教会で大斎第一主日の聖体礼儀。

聖体礼儀後に信徒総会を開催。昨日、資料を準備しておいたので滞りなく終わりました。

ただ、決算月が12月である関係上、総会を3月末に行ってきたのですが、教会の役員は公的な仕事に就かれている方たちばかりで、年度末の繁忙期と重なって大変なのです。そのため、来年の総会日時を2月に早めて、その分決算事務を早急に行うことにしました。

 

さて、正教会では大斎第一主日を「正教勝利の主日」と呼んでいます。これは843年の大斎第一主日ビザンチン帝国がイコンを偶像とみなした誤りを認めて、イコノクラスム(聖像破壊論争)が終結し、キリスト教会の正統な教義(Orthodox Dogma = 正教)の主張が守られたことを記念するものです。

 

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正教勝利の主日聖体礼儀 小聖入


2021.03.21 正教勝利の主日 聖体礼儀

 

今日でも「十戒偶像崇拝を禁じると聖書にちゃんと書いてある(出エジプト20:5)のに、正教会は聖堂に絵なんか飾っておかしい。正教会は異端だ」とドヤ顔で言う人がいます。

しかし、そのような主張は古代教会時代からあり、イコンを禁じた8世紀のビザンチン皇帝も例外ではなかったということです。

この問題に関して、787年に教会の全代表者が集まって会議を開き(第七全地公会)、イコン否定派とイコン肯定派との論争が行われて、イコン自体を神として拝むのでない限り偶像崇拝ではないという結論に至りました。つまり、キリスト教の「正しい教義」として、イコンは偶像とは違うと理解しているということです。

その決定の根拠は、キリスト教とはそもそも「イエスは目に見えない神が目に見える人間となって、この世に来られた救世主(キリスト)だと信じる」ということにあります。

つまり、キリストご自身が神であり、同時に神のイコン(ギリシャ語で「イメージ」の意味)でもあるという考えです。よってキリスト教徒が十戒、つまりキリストの降誕以前の律法を持ち出してイコンを否定することは、極論すればイエス・キリストを否定し、自分は旧約の信仰、つまりユダヤ教徒だと言っているのと同じことになってしまうのです。もちろんイコン本体を神だと思って拝んだとしたら、それこそまさに偶像崇拝であり、やはり自分はキリスト教徒ではないと言うのと同じになってしまいますが。

もっとも、こういう当たり前な結論でも、公に受け入れられるまでは787年から843年まで60年近くかかったというわけです。

 

さらに言うなら、イコンは偶像でないだけでなく、眺めて鑑賞するための芸術作品でもありません。

つまりイコンは神学的な命題や聖書の記述、聖人らの事績などを視覚的に示すものであって、ミケランジェロなどの作品に代表されるような、ルネサンス以降の西方教会の宗教絵画に見られる「芸術家個人の主張」は、世俗の考えであって教会の主張ではないという理解です。

そういうイコンが示す「神学の絵解き」みたいなものも、またいつかの折に書いてみたいと思います。