九州の正教会

日本ハリストス正教会のグレゴリー神父です。熊本県人吉市から情報発信しています。

突然廃業した豆腐店~後継者問題はどこにでもある

司祭館として借りて住んでいる家の前に豆腐店があります。

腰の曲がった老夫婦と中年の娘さんでやっている店で、昔ながらの手作りの豆腐やお揚げの味が素晴らしく、引っ越してきてからずっと贔屓にしていました。高級料亭の豆腐と比べても遜色ないものだったと思います。高級料亭に入ったことはありませんが…

 

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いつも作業場で午前2時から作り始め、6時半頃には出来上がった商品を娘さんが車で地元のスーパーに納品していました。

正月三が日以外、休みなしです。

 

卸が専門で小売りはしていませんが、特別にお願いして、豆腐や油揚げなどと共に非売品の豆乳も、毎週火曜日の朝に分けてもらっていました。

 

今朝も妻が豆乳を買いに行ったら「廃業したのでもう作っていない」とのこと。

先週まで普通に営業していたので、妻が理由を聞いたら、先週の木曜日の午後、別の場所に住んでいる娘さんが店に出てこないので、おかみさんが見に行ったら自室で倒れて亡くなっていたそうです。

くも膜下出血とのことですが、早朝の豆腐作りの時は全く異常がなかったので、信じられなかったそうです。

 

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突然廃業した万江とうふ店

週末に鹿児島出張から戻って、店に明かりがずっと点いていないので、様子がおかしいとは思っていましたが、まさか廃業とは。
妻が花屋に行って仏前用の供花をアレンジしてもらい、夕方にお届けしました。おかみさんは「自分たちがもっと若ければ夫婦だけで店を続けられたが、もう娘がいないと将来的に無理なので辞めた」と残念そうに言っていたそうです。

 

冷蔵庫に残っていた油揚げの最後の一切れを、味噌汁に入れて夕食にいただきました。豆腐はもう食べてしまったので、他店のものをスーパーで買いましたが…

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油揚げの最後の一切れ

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万江とうふ店の最後の油揚げを入れた味噌汁

 

店主は高齢とはいえ、豆腐を作る技術があるのに、販売店への出荷・配送の担い手だった娘さんがいなければ、個人的な趣味で豆腐を作るならともかく、商売としては確かに成り立ちません。

店主には息子さんもいて、店に来るのをたまに見かけるのですが、別の場所に所帯を持っており、豆腐店を継ぐ意思はないようです。

何十年も商売をしてきた老舗の事業者が、継ぐ人がいないという理由で店を畳むという、絵に描いたような後継者問題の事例を目の当たりにしました。

 

日本正教会も都会と地方とを問わず、ほとんどが団塊の世代以上、つまり70代以上の信徒で運営されているのが実態です。私は九州で4教会管轄していますが、執事長(信徒代表)で一番若い方は人吉教会で今年80歳です。

その子ども世代、つまり私と同年代(50代)以下の年齢層は教会に来ないどころか、信徒家庭なのに幼児洗礼を受けていない方も少なくありません。

宗教の継承は商売の家業と違って、純粋に本人の信仰心に立脚していますから、「うちは先祖代々信者ですが、私自身は神を信じていませんので信徒名簿から名前を消してください」と言われたら、どうしようもできません。

正教会は「そんなことでは先祖が地獄に落ちますよ」「あなたにバチが当たりますよ」というようなカルト宗教ではありませんし。

 

そのようなわけで教会の後継者問題も深刻なのですが、司牧者である我々が現代に生きる人々の心にちゃんと届くアプローチをして、信仰を持っていただく努力を今後も続けていきたいと思っています。