九州の正教会

日本ハリストス正教会のグレゴリー神父です。熊本県人吉市から情報発信しています。

聖枝祭とネコヤナギ

西方教会カトリックプロテスタント)では今日が復活祭ですね。おめでとうございます。

今年は東方正教会では1週間ずれて、来週の日曜日が復活祭となります。

 

今日は復活祭の前の日曜日、聖枝祭の聖体礼儀を熊本ハリストス正教会で執り行いました。

聖枝祭聖体礼儀。祭服の色の指定は緑。

エスエルサレム入城(ヨハネ12章ほか)を記憶する祭日ですが、この出来事は単なる歴史上の事件に留まるものではなく、イエスの十字架上の死と復活に向かうプロセスの始まり、つまり「キリストによる人類の救いのわざ」のスタートだと、キリスト教会では理解しています。

 

このエルサレム入城の時、市民は「なつめやしの枝を持って迎えに出た」(ヨハネ12:13)と聖書に記されています。英語での呼称「Palm Sunday」(シュロの日曜日)もこれに由来します。

 

正教会ではこれを象って、聖枝祭の祈祷の時に参祷者は様々な木の枝を手に持つことになっています。様々というのは、同じ正教会でも地域によって違いがあるからです。

私が知る限りでは、中近東の教会では聖書の記述のとおりヤシ科の植物ですが、ギリシャなどバルカン半島ではオリーブなどの常緑樹の枝を使うことが多いようです。

ロシア圏では寒冷地でそういった植物がなかったためか、ネコヤナギの枝を用いるという特徴があります。そのため、祭の呼称も教会スラブ語ではシュロではなく「枝の主日」です。日本正教会での名称「聖枝祭」もこれに由来します。

また、日本正教会はロシア経由で宣教された経緯もあり、聖枝祭でもネコヤナギを用いることが習慣となっています。

しかし、日本はロシアと違って温暖なので、北海道や東北以外の教会ではどこも、4月にネコヤナギを入手するのに結構苦労しています。

ちなみに私の前任教会では、東北在住の信徒に自生しているネコヤナギを採取して送ってもらっていました。

もっとも上記のように、正教会では伝統としてその地域でポピュラーな木の枝を用いてきました。その意味ではネコヤナギの方が、史実の舞台であるエルサレムから見ればイレギュラーかも知れません。よって、わが国でもネコヤナギに固執する必要はないのであって、ネコヤナギが入手できないなら松や椿など、わが国の庭木としてよくある木の枝を使えば良いと私は考えています。

 

いまの私の管轄では今回、人吉ハリストス正教会の境内に植えたネコヤナギの枝を2月末に切り、それを保管しておいて、買ってきたチューリップなどの花を加えてラッピングしました。

このネコヤナギは私が着任した時、人吉教会の執事長が川辺川のほとりに自生していた木の枝を挿し木したものです。それが成長して今回つぼみをつけました。

まだ若木なので枝は4本しか採れませんでしたが、業者に高いお金を払い、ネコヤナギを買って体裁を整えるよりも、教会で育てた木の枝(たとえそれがネコヤナギの木でなかったとしても)を使うことに意味があると思っています。

参祷者に配ったネコヤナギの枝とチューリップの花

聖枝祭から来週日曜日の復活祭までの1週間を、正教会では「受難週間」(Passion Week)と呼び、イエスの受難への道、つまり上記の「キリストによる人類の救いのわざ」のプロセスを記憶します。

1年間で最も厳粛なこれからの1週間を、教会での祈りを通して送っていきます。