先週、人吉ハリストス正教会に草刈りに行ったら、新教出版社から私宛てに郵送された本が旧司祭館の郵便受けに入っていました。
人吉を含め、九州の教会はどこも無住ですので、郵便物が届くと場合によっては次の巡回まで一か月放置されてしまいます。そのため、ウェブサイトには郵便などの送り先として事務局(司祭館)の住所を掲載しているのですが、どうやら世間では神父はみな教会の中に住んでいるというのが常識なのかも知れません(笑)。
何はともあれ、それまでの大雨で、ポストの中までは水が入っていなくて良かったと思いつつ開封すると、訳者からの進呈ということで新刊本が入っていました。
それは大阪ハリストス正教会の松島雄一神父が翻訳したカリストス・ウェアの『正教の道』(原題 "The Orthodox Way")でした。
いやー、とうとう出たか!と思うと、本が空き家の旧司祭館に送られて何日も放置されていたことへのイライラ感は吹っ飛びました。
カリストス・ウェア(ティモシー・ウェア)の『正教の道』ができました! 正教の立場からキリスト教信仰の要諦を平易に語った書。1979年の初版以来版を重ねた現代の古典。本書は1995年の改訂版に基づいています。https://t.co/ZlDiGNImci pic.twitter.com/yGgi8ZUFXh
— 新教出版社 (@shinkyoshuppan) 2021年5月25日
著者のカリストス師は、英国出身で旧名をティモシー・ウェアといい、現在はコンスタンチノープル総主教庁所属の府主教。現代の正教会を代表する神学者です。
この『正教の道』は1979年に出版され、1963年に出版された『正教会入門』(原題 "The Orthodox Church")と共に、現代の正教会神学の名著となっています。
松島神父は過去にも、アメリカを代表する神学者アレクサンダー・シュメーマン神父(故人)の『世のいのちのために』(原題 "For the Life of the World")と『ユーカリスト』(原題 "The Eucharist")を翻訳し、また前述の『正教会入門』も2017年に翻訳しています。
私もそれらの本は全て原書で持っているのですが、当然ながら日本語で正しく翻訳されていれば読みやすさは何倍にもなります。
東方神学の本は過去にも翻訳されたものがたくさんありますが、主にJ大学の先生(つまり正教徒でない人)たちが手掛けており、ちょっと日本語の使い方にその教派流のバイアスがかかっていて、読んでいてしっくり来ないことがしばしばありました。(浅学なくせに偉そうなことを書いて図々しいのですが…)
その点、松島神父の翻訳はどれも極めてノーマルな表現になっており、正教徒はもちろん他教派、あるいはノンクリスチャンの方にも読みやすくなっています。
著作権に抵触しますのでネタバレは書きませんが、正教会の神学に関心がある方にはぜひお勧めします。
特に、キリスト教はカトリックとプロテスタントのどちらかだと思っていて、正教会は地域的・民族的に限定されたマイナー宗教、あるいは儀礼・形式中心主義で神学に乏しい宗教だと思い込んでいる人々には、むしろ必ず読んでもらいたいくらいです。
ちなみに表紙のデザインになっているのは、セルビアの世界遺産・ストゥデニツァ修道院のイコン「キリストの磔刑」です。
私も2016年秋に訪ねて見てきましたが、日本の教会にはない歴史の重みを感じる一方、800年経った聖堂内のフレスコ画のイコンは傷みが激しく、痛々しい思いがしました。
最近、ストゥデニツァ修道院のフレスコ画の修復が完成したと聞き、また訪ねたいと(今の生活ではいつ実現できるか分かりませんが)思っていたら、この本の表紙を見て生まれ変わったイコンに再会できました。そちらの方でも感慨深い気持ちで一杯です。