昨日から泊りがけで北九州市に出張していました。
今日の11時に門司区の太刀浦埠頭でギリシャ船の船舶成聖式を行うためです。
「成聖」(Blessing)とは、いろいろな物品や食べ物に聖水をかけて、それを使用したり食べたりする人に神の祝福があるように祈ることです。
例えば建物を建てる時は、まず着工前に「土地」を成聖し(神道にも地鎮祭というのがありますが…)、竣工した時、あるいは入居する前に「家屋」を成聖します。
特に乗り物は事故が起きると人命に関わりますから、新しく製造あるいは購入した時は必ず成聖することが推奨されます。
聖水をかける行為は同じでも、対象となる物品によって祈祷の文言や聖書の引用箇所は異なります。「この物を成聖するのは、聖書のこれこれの記述に基づいて、神が○○してくださることを願うためです」という理由付けが祈りの中でなされなければ、ただの「おまじない」になってしまうからです。
正教会の祈祷を見て、「正教会は儀式ばかりで形式主義的だ」と批判的なことをいう人がよくいるのですが、祈祷の文言を読んでから言ってもらいたいです。
ともあれ、そのようなわけで同じ乗り物でも、「車両」「船舶」「飛行機」は祈祷の文言が異なっており、今日は「船舶」だったということです。
現場の太刀浦埠頭、というか北九州市自体が初めて訪ねる地で、事前に代理店の日本人担当者のA氏から地図をもらい、それをカーナビに登録して、30分前の10時半には着くように行きました。
ところが指定された場所に着いても、トラックやコンテナがたくさんあるばかりで、肝心の船はどこにも見当たりません。
もし場所が分からなかったら会社に電話するように、とA氏から言われていたので電話すると、なんと本人は休み。他の社員の方に「今どこにいますか」と尋ねられても初めて来た場所だし、目印もないので説明するのが大変でした。
とりあえずその方から船の停泊場所を聞いて(1㎞くらい離れた別の埠頭でした)、車で行くと、今度は守衛さんが「事前に聞いていない」「通関の書類を見せてください」と言って敷地に入れてくれません。
そんなものはこちらの責任ではないので、押し問答のあげく、代理店に電話して社員に直接現場まで来て説明してもらいました。
それでようやく入場。もう開式時刻の11時になってしまいました。
船の名は「アティナ・ザフィラキス」。新造船かと思ったら傷だらけの中古の船で、船名をペンキで書き直しているところでした。
代理店の人は船の前で「私は担当ではないので、ここで失礼します。あのタラップ(船体の中央に斜めにかかっている)をご自分で昇ってください」と言って帰ってしまいました。
客船のタラップはちゃんとしていますが、この貨物船のタラップは階段というより幅50㎝くらいの縄ばしごのようなもので、カソックを着たまま昇るのは大変でした。
船員に船長室まで案内してもらい、船長に挨拶。続いて一番上の艦橋に上って祈祷を執り行いました。
ちなみに、船長と副長(何と呼ぶのか分かりません)はギリシャ人でしたが、他の20人くらいの船員は全員東南アジア人でした。フィリピン人の他、ムスリムのような服装の人もいましたので、マレーシア人かインドネシア人もいたようです。日本語が話せる人は誰もいませんでした。
正教会の存在自体がわが国では珍しいのですが、船舶成聖はギリシャなどの正教圏の船でなければ行いませんし、実際に立ち会うのは関係者だけですので、一般の方はまず見る機会がないと思います。そこで三脚を持ち込んで、祈祷をYouTubeに収めました。
祈祷の後、船内や甲板にくまなく聖水を撒いて回りました。祈祷自体は7分弱ですが、船がとにかく大きいので聖水を撒き終わるまでさらに30分以上かかりました。
一通り終わったら、船内を案内してくれたフィリピン人の船員が「ランチをどうぞ」と言うので、いただきました。船長が「神父様、ご苦労さまでした。一緒に食事でも」と言うのかと思ったらそうではなく、船員用の食堂で船員が食べているのと同じ昼食が出て、一人で食べました。
ここは教会ではないし、船員は正教徒ではありませんので、当然ながら斎期の料理ではなく、ソーセージが入っています。しかし、それよりも、重労働に従事している船員たちが、それこそこんな修道院みたいな質素な食事で体を壊さないか心配になりました…
そんなこんなで、何とか無事に終わって下船しました。
埠頭から海を見ると関門海峡が見えました。幅はわずか600mで、海というより大きな川の河口のようです。
私自身は船舶成聖式を行うのは二回目で、今日はハプニング続きでしたが、何事も経験だと思って門司を後にしました。