私は日本ハリストス正教会教団の専従聖職者で、西日本主教教区に所属しています。
日本正教会には東京、東日本(仙台)、西日本(京都)の三つの主教教区があり、それぞれ教区単位で宣教に関わる活動を行っています。
また、各教区とも単独で運営できるだけの財政基盤がない地方の零細な教会があり、教区はそういった教会の牧会をサポートしています。わが九州管区などはまさにそれで維持できています。
そのための財源を確保するために、各教区では信徒が所属教会に納める献金以外に、教区への献金(わが教区では「宣教献金」と呼ぶ)をお願いしているわけです。
昨年異動で西日本教区に来た私は、今年度の教区の宣教献金の募集案内を作るよう仰せつかっています。
それで今日は案内チラシを編集していました。
さて教区、教区と言うが、そもそも「教区」とは何か、ということについて説明しましょう。
正教会のように「使徒継承」を謳っている伝統的なキリスト教会の組織は、使徒の後継者と位置付けられる主教(bishop)たちによって運営されます。各主教が管轄している地域を「教区」(Diocese)といいます。そして、その国や地域、あるいは民族単位で、教区主教たちの代表者である主座主教がいます。
正教会以外の教会も含めれば、所属信徒数最大の主座主教はローマ教皇です。教皇が管轄する教会組織はローマ・カトリック教会と呼ばれ、帰属する主教(日本のカトリック教会は「司教」と表記)と信徒は全世界にいます。
正教会に限れば、信徒数最大の主座主教はモスクワ総主教です。モスクワ総主教が管轄する組織はロシア正教会と呼ばれ、信者は1億5千万人ほどです。ロシア革命によって多くのロシア人が海外に亡命したため、ロシア正教会に所属する信徒も欧米やオーストラリアなど、ロシア国外にも多数います。
なお念のため付記しますが、モスクワ総主教は世界に何人もいる正教会の総主教の一人に過ぎませんので、正教会そのものを代表する立場ではありませんし、正教会は「ロシア教」ではありません。
日本正教会も19世紀に、ロシア正教会所属のニコライ大主教の宣教によって発足したため、現在もモスクワ総主教の承認のもとで日本人主教が自主的に運営する「自治教会」という組織になっています。
日本正教会は東京・お茶の水の東京復活大聖堂(通称ニコライ堂)が本部で、そこに主座主教であるダニイル府主教がいます。ダニイル府主教は東京教区の大主教であると共に、地上の組織である「宗教法人日本ハリストス正教会教団」の代表役員でもあります。
日本に主教教区は前述のとおり三つあります。現在、日本正教会に主教は二人しかいないため、空席の京都主教の権限は主座主教のダニイル府主教にあります。
主教教区内には各地域に教会があります。主教は各教会に司祭(priest)を配置して管轄させています。一人の司祭が管轄している教会を日本正教会では管轄区または管区(parish)と呼んでいます。日本正教会は教会数に対して司祭の人数が極端に少ないため、一管区に複数の教会がある、言い換えれば一人の司祭がいくつも教会を掛け持ちするのが当たり前になっています。九州もそうです。
正教会はイエスから使徒へ、さらに使徒からその後継者である主教へ三つの職分、すなわち牧会(教会運営)・機密(祈り)・宣教(教えの伝達)が委ねられていると考えます。その主教の職分を各管区で代行する立場として、司祭は叙任・配属されています。
つまり、正教会における司祭の位置づけは「冠婚葬祭・お祈り要員」でも「説教・勉強会要員」でも、まして教会の電話番でもなく(もちろんそれらも大事な職務ですが)、「各管区における教区主教の代行者」という重大な責任を持たされているのです。
そういうことで、教区の財政に貢献することも大事なお役目ですので、頑張ってお勤めしています。