九州の正教会

日本ハリストス正教会のグレゴリー神父です。熊本県人吉市から情報発信しています。

国内の教会でクラスター発生~教会でのコロナ感染防止対策を再考する

今日は年賀状を出しに人吉郵便局へ。

年末、週末、さらに月末の25日の三密ならぬ「三末」で、駐車場が何かのイベント会場みたいに混み合っていました。

しかし元日に届くように年賀状を発送できて一安心です。

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人吉郵便局の年賀状専用ポスト

 

さて、ネットでニュースをチェックしていたら、頭を抱えたくなる記事が飛び込んできました。

 

中部の教会でクラスター 沖縄県「クリスマスも感染のリスクに注意を」  - 琉球新報デジタル|沖縄のニュース速報・情報サイト https://t.co/wufFp2yQRm

 

沖縄の教会で信徒8人がコロナに感染し、クラスター認定されたとのこと。

記事によれば、この教会では「決まった日に礼拝が行われ、歌を歌ったり」云々とあるのですが、それはキリスト教の教会なら当たり前であり、そのこと自体は非難できないように思いました。また定期的な礼拝自体が原因なら、日本中の教会でもっと感染者が発生していなければおかしいとも思います。

しかし記事には「礼拝後には食事会を開いたりしていた。食事会では参加者が料理を持ち寄り、マスクの着用はなかったという」とありました。教会だろうとレストランだろうと、物を食べる時はマスクを取るに決まっているのですから、この指摘もおかしいとは思います。しかし会食、正確には食事をしながらの会話、さらに言い換えればマスクなしでの近距離での会話が感染リスクを最も高めることは、これまでもずっと報じられてきたのであり、この礼拝後の食事会が原因だったと考えられます。

教会とは祈りを捧げるための場所であって、ご飯を食べるための場所ではありませんから、もし礼拝と関係ないところで感染拡大したのであれば、本当に残念としか言いようがありません。

 

今日、12月25日はまさにクリスマスの当日であり(ユリウス暦を採用している日本正教会は1月7日ですが)、復活祭と並んで最も多くの人が教会に来るこの時期に、教会のクラスター化が判明したというのは、教会での感染防止対策を再考させるための警鐘と思えなくもありません。

 

日本正教会でのコロナ感染防止へのスタンスについては、以前ブログにも掲載しました。

 

frgregory.hatenablog.com

 

正教会ではイコンやその他の聖器物に接吻する習慣があり、また聖体(パンと葡萄酒から変化したキリストの体と血)は同じカップから同じスプーンで頂くことから、前述の食事会云々以前に礼拝での感染リスクが十分考えられます。また海外では「神聖な教会でコロナに感染するなどあり得ず、教会内でマスクをするのは不敬虔だ」と考える傾向が強くあります。

国内の信者からも私に対して「司祭がキリストの聖体でウイルスに感染するという発言は許されない」という執拗なクレームがありましたが、私はキリストの聖体でウイルスに感染するとは言っておらず、聖体の容器や司祭の手が地上の物体である以上、同じ地上の物体であるウイルスが付着するリスクは避けられない、と言っていますので念押ししておきます。

 

実際、11月にセルビア正教会のトップであるイリネイ総主教がモンテネグロ府主教(セルビア正教会のNo2)の葬儀を司祷した際、自身もコロナに感染して永眠するという出来事がありました。くだんの葬儀の様子はYouTubeに上がっていますが、数千人の参列者で大聖堂はひしめき合っており、誰もマスクをしていませんでした。ちなみにモンテネグロ府主教の死因もコロナ感染症でした。

Serbian Orthodox Patriarch Irinej dies https://t.co/1PW9FPALoq

もし教会は神聖だからコロナに罹らないというなら、総主教ほどの立場の方がどうして罹ったのでしょうか。それで教会指導者の尊い命が立て続けに失われたら、教会として大きな損失ではないでしょうか。「不敬虔」とか「神への冒涜」とか御託を並べて、教会のコロナ対策に努力している人々に安全な場所から悪口を言う人は、コロナ感染で教会が危機に見舞われたら責任を取ってくださるんでしょうね、と言いたいです。

 

 話を本題に戻しましょう。

クリスマスを迎えて、国内の各教派、あるいは各教会ごとに対策を発表しています。概ね、①礼拝の中止、または非公開化、②礼拝は行うが入場数を制限、または信者に限定、③礼拝は行うが参祷者は無言。歌は少数の奉唱者に限定または器楽奏楽のみ、のいずれかのようです。ちなみに日本正教会の本部であるニコライ堂は②です。

私のように遠方の小教会を巡回する牧会スタイルでは、緊急事態宣言時のように「巡回取り止め・教会を当面閉鎖」とするのが一番簡単ではあります。しかし、緊急事態は「宣言」とともに「期間」もあったから、一時的に巡回しないということで理解も得られたのですが、現在のように公の宣言が何もされずにただ感染が一方的に広がっているという状態では、一度教会を閉じてしまうと再開するめどが立たなくなり、そのまま自然消滅という恐れもあります。

そこで、自教会については感染防止対策をさらに強化しつつ、祈りを守っていくことが最善の選択肢だと考えています。

 

現況、「聖堂内でのマスク必須」「手の消毒」「接吻の禁止」「聖堂内での信者の間隔確保」「窓を開けての換気」「領聖時のスプーンの使い捨て」「祈祷後の飲食中止」を行っています。

これまで熊本と人吉の教会で降誕祭を行いましたが、恒例の持ち寄りでのクリスマスパーティーは中止し、持ち帰り用の弁当の配布に切り替えています。

 

これ以上何を付け加えるか思案しましたが、飛沫対策として「信徒の無言」くらいしか思いつきません。

聖体礼儀では司祭以外にどうしても聖歌者と誦経者が必要ですが、私の妻プラス1名くらいで聖歌と誦経を全部行わせ、他の方たちには黙って聞いていただくことにしようと考えています。

聖体礼儀に限らず正教会の祈祷は、無伴奏カンタータのような流れになっており、歌わなくては祈祷自体が成立しません。大きな教会だと聖歌隊があって普段から練習しており、祈祷では彼らが聖歌を合唱し、一般の参祷者は黙っていても問題ないのですが、私の管轄は少人数なのでやむなく全員に「歌えなくても無理して」歌わせてきました。しかしもう限界でしょう。

私の着任前から何十年も「教会の中では歌わなきゃいけないんだ」と刷り込まれてきた(?)信徒たちに「祈祷中は声を出さないでください」と告げると、さぞ戸惑うことでしょう。

しかし、「教会でのクラスター」という恐れていたことが現実となった今、妥協せずに教会での感染防止対策に努めたいと思います。