今日は桃の節句、いわゆるひな祭りの日です。
先週末の鹿児島巡回の時、島津家の屋敷である仙厳園に立ち寄ったら、御殿(島津邸)に九州各地のローカルなひな人形が飾られていました。
別の場所には島津家所蔵の、江戸時代の豪華なひな人形が飾られていましたが、撮影禁止のエリアだったので写真はありません。
ひな祭りの由来は、邪気を祓う春の祭です。
春の訪れにあたり、紙製の「流しびな」に邪気を集めて川に流すことで、無病息災を祈る古い神事がもとになっているそうです。
さて、ロシア軍がウクライナに侵攻して今日で1週間経ちましたが、憤懣やるかたないニュースがいくつも飛び込んできました。
まず、銀座にある有名なロシア食品店「赤の広場」の看板が何者かによって壊されました。
都内ロシア食品店の看板が破壊される。店主はウクライナ出身「悲しい出来事」 #BLOGOS https://t.co/n7ui53Lxcs
— 九州の正教会 日本ハリストス正教会九州管区 (@ocjkyushu) 2022年3月3日
このお店の店主はウクライナ出身です。
店がツィッターに書いたコメントは、とても大切なことですので転記させていただきます。
「当店で起きた悲しい出来事についてお話しさせていただきます。
2月28日の夕方、店舗の看板が壊され、割られてしまいました。
ロシアの食品を扱っているという理由からでしょうか。店名のせいでしょうか…
実は当店代表はウクライナ人、スタッフもウクライナ人、ウズベク人、日本人です。
そのうちの5人はシングルマザーとして家族の生活を支えるために働いています。
私たちがどんな国の出身者でも、お店と政治につながりはありません。
私たちは日本とウクライナ、ロシア、その他の国々との懸け橋になりたいという気持ちで働いています。
早く両国に平和が訪れて、お互いの国が仲良くなることを心から望んでいます。
そして、祖国の人々に笑顔が戻ることを願っています。」
当店をご利用のお客様へ pic.twitter.com/zWzxGFOLlu
— ロシア食品専門店 “VictoriaShop” (@victoriashop_ru) 2022年3月2日
また、ツィッターには東京・吉祥寺にあるロシア料理店「カフェ・ロシア」へのネットの誹謗中傷がひどいという投稿もありました。
日本のロシア料理店が嫌がらせを受けてるって聞いて吉祥寺のカフェ・ロシアのGoogleのクチコミを見たら案の定だった…
— Tets.T (@headed4nowhere) 2022年3月2日
こんなことをしても何の意味もないし、そもそもこのお店のオーナーは日本人でシェフはウクライナ人だったはず…
とりあえずこのお店の裏名物のジョージア料理の写真を貼っておく pic.twitter.com/pM5s6wXkFX
この店はとても美味しいので、私も首都圏時代はよく行きました。
投稿者も書いていますが、ロシア料理の看板を掲げているとはいえ、オーナーは日本人(私の友人の同級生)、シェフはウクライナ人です。
他にも、ロシア出身というだけで差別されている人々のニュースもありました。
ひぼう中傷や差別 在日ロシア人に広がる不安|NHK 関西のニュース https://t.co/N6zHSTOyhm
— 九州の正教会 日本ハリストス正教会九州管区 (@ocjkyushu) 2022年3月3日
こういったヘイトクライムは悪意というより、「誤った正義感」が原因です。たぶん、やっている側は自分は正しいことをしていると確信しているはずです。文字通りの「確信犯」です。
本来、どこの国が戦争しようと「戦争は絶対に悪、平和は絶対に正義」のはずなのです。侵略者ほど「平和のための戦争」「正義のための戦争」という論法をかざすのですが、詭弁以外の何ものでもありません。
また、今回の戦争で、多くの罪なきウクライナ国民が苦しんでいるのは事実ですから、彼らを助けようと考えるのも当然です。
しかし、苦しんでいるウクライナの人々に寄り添うのではなく、侵攻した側のロシアを非難するあまり「ロシア(という特定の国)が絶対に悪。だからロシアを支持する者、ロシアを批判しない者も悪。よってロシア(と名前がついたもの)を攻撃するのは正義」という論理のすり替えが(そもそも整合性がないので論理ですらありませんが)広く生じているような印象を受けています。
つまり「誤った正義感」です。
わが国もかつて中国大陸に侵攻し、さらに米英とも戦争していたわけですが、当時の社会は「英語を使ったら鬼畜米英の手先」といった類の感情的・非論理的で正論を受け入れない、狂気に満ちた同調圧力に溢れていました。そしてわが教団代表だったセルギイ府主教は、ソ連国籍のロシア人だったがゆえにスパイと決めつけられ、憲兵隊に酷い仕打ちを受けて、それがもとで落命しました。
今回の「国内のロシア人いじめ」にも全く同じ狂気を感じます。わが国は完膚なきまで叩かれて戦争に敗れ、それから80年近く経ったのに、国民が「論理なき同調圧力は狂気」ということを何も学んでいないのに愕然とします。
そもそも国家と、個々の人間は別物です。だから「基本的人権」という概念があるのであり、国家が個々の人間の人権を侵害するのは許されないはずです。
その意味で今回の戦争に関して言えば、ウクライナの人々のみならずロシアの多くの人々も、ともに「被害者」と言えましょう。
それにもかかわらず「ロシアは悪い国だから、ロシア人はいじめられて当然」という発想を持つこと自体が、自民族の保護を口実に他国を侵略し、人権を踏みにじる国家と全く同じロジックです。
つまり戦争への反対ではなく、加担です。
いや、軍隊が砲火を交える戦争なら自分も傷つくかも知れませんが、ネットでの誹謗中傷など、匿名でコソコソ他人をいじめる者は、自分は安全なところにいて傷つくことがないのですから、侵略者よりもっと卑怯で卑劣な連中でしょう。
わが日本正教会についても、相変わらず「プーチンは悪。ロシア正教会も悪。だから日本正教会もその一派だから悪」といった類の誹謗中傷が絶えなくて迷惑しています。
これまで何度も書いているのですが、日本正教会はロシア政府と何の関係もないし、ロシア正教会(正確にはモスクワ総主教庁)の日本支部ですらありません。
「ロシア人ともウクライナ人とも同じ信仰を共有する日本のキリスト教会」なのです。
上記の看板を壊された店主の表現を拝借して、私たちの教会について説明するならば「信者がどんな国の出身者でも、教会は政治に繋がりはありません。教会は祈りを通して、ロシアとウクライナだけでなく、ルーマニアやギリシャなど、信仰を同じくする様々な国から来た人々と日本人との架け橋になっています。早く露宇両国だけでなく、世界の他の紛争国にも平和が訪れて、全人類に戦争と差別がなくなるよう心から望み、神に願っています」となります。
もし、教会が上記の「ロシアを非難しない者は侵略者の仲間と見なす」といった類の社会の同調圧力に屈して、特定の国(この場合はロシア)を貶める発言をしたら、その国の出身の信者の中には心が傷つく人がいるかも知れません。それは教会の役割である「架け橋」を自ら落とすことになります。何度でも言いますが、国家と個々の人間は別物であり、教会は国家の利益でなく、一人ひとりの人間の心の救いのために存在しているのです。
ひな祭りは邪気を祓う日本の伝統的神事と書きましたが、今回の戦争であらわになった人間の邪悪な心が退けられるよう、神に祈り続けます。