九州の正教会

日本ハリストス正教会のグレゴリー神父です。熊本県人吉市から情報発信しています。

福岡で主の昇天祭 ウクライナ出身信徒のこと

昨日は福岡伝道所で、主の昇天祭の聖体礼儀を執り行いました。

イコン「主の昇天」(人吉ハリストス正教会蔵)

主の昇天祭は、キリストが復活から40日目に昇天したこと(ルカ24章、使徒1章)を記念するもので、復活祭に次いで重要な12の祭「十二大祭」の一つです。

主の昇天祭の神学的意味については、去年投稿しましたので過去記事を貼っておきます。

 

frgregory.hatenablog.com

 

 

復活祭は必ず日曜日ですので、40日目である昇天祭は必ず木曜日となります。今年の復活祭は4月24日(日)でしたので、昇天祭は本来なら6月2日(木)となりますが、九州では基本的に日曜日しか教会に巡回していないので、祈祷を昨日にスライドして行いました。


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さて、以前にもご紹介しましたが、福岡伝道所にはウクライナ出身信徒のイリナさん(仮名)がいます。

 

frgregory.hatenablog.com

 

彼女はとても信仰に篤いのですが、お母様が昨年亡くなったので、命日である6月1日に一年祭パニヒダを献じてほしいと頼まれ、人吉教会で妻と二人でお祈りしました。

イリナさんのお母様のためのパニヒダ

日曜日は福岡伝道所にイリナさん本人が参祷し、再度パニヒダを依頼されましたので献じました。

福岡でのパニヒダ

イリナさんの故郷は、まさに今ロシア軍に蹂躙されているドネツクです。ウクライナ、とりわけドネツクでの戦乱は今年唐突に始まったのではなく、2014年のロシアのクリミア半島併合宣言以降、いわゆる「親ロシア派武装勢力」とウクライナ政府軍および民族主義武装勢力との間で、もう7年以上も続いています。

イリナさんのお母様は戦争で亡くなったわけではありませんが、内戦状態のドネツクで大変苦労して生活されていたそうです。

お母様が亡くなった時は、コロナ禍でイリナさんは帰国できず、葬儀には出られませんでした。そのため、昨年もイリナさんに依頼されて、人吉教会でパニヒダを献じています。

 

frgregory.hatenablog.com

 

彼女の故郷は今、ロシア軍の占領下にあるため、ご実家やご両親のお墓はどうなったか、確かめるすべがないと言っていました。

 

ドネツクといえば、ちょうどこの前日の4日夜、正教徒である私にとってショッキングなニュースが飛び込んできました。

ドネツクのスヴャトヒルスク大修道院がロシア軍の攻撃を受け、炎上している映像です。

 

もちろん、この戦争で攻撃を受けて破壊された教会はここだけではなく沢山あります。しかし上記の大修道院を含めて、その多くは既存のウクライナ正教会、つまりモスクワ総主教管下の自治教会のものです。

ロシア側は今回もいつもと同様、ロシア軍の攻撃ではなくウクライナ軍の自作自演だと主張しているのですが、ロシアの評判を下げるだけのために、ウクライナ側がわざわざ自国の建物を壊し、自国民を殺害する、つまり積極的に自国の不利益を追求するというのは、全く説得力に欠ける主張としか私には思えません。

しかも教会はロシア人だろうとウクライナ人だろうと、正教徒なら共通して神聖な場所と認識しているはずであり、まして軍事施設などであるはずもないと分かっているのですから、そこを攻撃して焼き払うなど、文字通り神をも畏れぬ狂気の沙汰です。

報道によれば、これまでモスクワ総主教はロシア軍の行動を支持する発言を一貫して繰り返してきました。しかし百歩譲って「国内でそういうことを言わなければならないお立場」ということを勘案しても、自分の管下の教会が焼き払われることまで黙認するのであれば、教会の代表としての立場の自己否定であり、何のために存在している首座主教なのか分かりません。残念の一言です。

もっとも、私が属する日本正教会はれっきとしたキリスト教会であり、信仰の対象はキリはキリでもキリル(総主教)ではなくキリストですから、自分自身がキリストの教えをしっかり守り、ただ実行していけばいいだけですが。

 

話をイリナさんに戻すと、彼女はいま、日本経済大学太宰府市)に雇用され、ウクライナ人留学生のケアにあたっています。

日本経済大学は今回の戦争にあたり、ウクライナの若者たちを救済するため、多くの学生を無償で留学生として受け入れたことが、全国的に報じられています。

 

当該大学はこれまでも、日本語専攻のウクライナ人学生を交換留学生として受け入れてきたそうなのですが、今回は非常事態で、全く日本語ができない学生も多数入学したため、福岡県内でウクライナ語と日本語の両方ができる数少ない通訳要員として、イリナさんが勤めることになったそうです。

私自身は以前から、九州に避難してきたウクライナの方のために、キリスト者としてできることをやっていこうと考えてきましたので、今後はこの太宰府ウクライナ人学生たちのためにも何ができるか、考えていきます。