先週のコロナ感染でしばらく教会での祈祷を休んでいましたが、今日の夕刻の晩祷から職場復帰ならぬ祈祷復帰しました。
明日は人吉ハリストス正教会で聖体礼儀と信徒総会。
夕刻からは大斎(Great Lent)のスタートとなります。
この大斎は復活祭の前日までの約7週間であり、主の受難を思い起こして節制し、主の復活を迎える準備をする期間という位置づけです。
その一環として、正教会では大斎期間中、原則として動物性食品、すなわち鳥獣の肉と卵、乳製品、魚を食べることを控えます(魚は食べることが許される日が多少あります)。これを英語ではFasting(断食)と言うため誤解されがちですが、特定の食材を断つという意味であって、何も食べないという意味ではありません。
面白いことに魚類でない水産物、つまり貝類、甲殻類、軟体動物などは禁止の食材ではないので、いくら食べてもOKです。
このことから斎とは、仏教の精進料理のように「殺生を禁じる」考えとは違うということが言えます(そもそも牛乳は牛を殺して作った食品ではない)。
斎で一定の食材が禁じられる意味は、人間が創造され、楽園(いわゆるエデンの園)にいた時の状態を思い出すことにあります。
楽園において人間は神から「園のすべての木から取って食べなさい」(創世2:16)と言われました。つまり楽園にいた時の人間は植物を食べて生きる者であり、動物は食べる対象でなく、共に園で生きる仲間だったということなのです。そして貝やカニなどの下等生物は、かわいそうですが仲間とは見なされないわけです。
さらに肉については1週間早く、先週の日曜日の日没から前倒しで禁食となります。よって肉が食べられる最後の日曜日を「断肉の主日」(Meat Fare Sunday)と呼んでいます。
そして断肉の主日の夜から、明日の日没の大斎の開始までの1週間を、酪農製品を食べ尽くす期間という意味で「乾酪週間」(Cheese Fare Week)と呼びます。
日本風に言えば「食べ収め」ですね。
ちなみに乾酪週間をロシア語では「マースレニツァ」と言います。これはマースラ(バター)から派生した単語で、直訳すれば「バター祭」というニュアンスです。
ロシア社会(国家としてのロシアではなく、ウクライナやベラルーシを含む地域社会の意味。念のため)では、マースレニツァの1週間で卵とバターを使い切るために大量のブリヌイ(クレープ)を作って食べるという文化があります。
西方社会におけるカーニバル(謝肉祭)とは元来、四旬節(正教会でいう大斎)に入る前に、肉を食べ尽くすという趣旨で始まったものですが、その意味でマースレニツァは正教社会のカーニバルということができるでしょう。
あいにくわが家では、わざわざクレープを作ることはしませんが、ベーカリーに勤めている娘がケーキを買って帰宅しました。
明日の夜はもう酪農製品は食べられませんし、日曜日は聖体礼儀が終わるまで何も食べられませんので、今日の夕食でケーキも食べ収めです。
あと一日で、大斎もスタートです。