本日、1月7日は降誕祭の日です。
熱心な信者には「クリスマスは12月25日ではなく、正教会では1月7日だから、1月7日が正しいんだ」と声高に主張する人もいるのですが、なぜそうなのかを示さずに自分たちが正しいと主張するのはカルト宗教と一緒です。
正しいも正しくないも降誕祭は4世紀に「12月25日」と定められたのであって、それ以外の選択肢はないのです。ただ、「何の暦の12月25日なのか」によって違いが生じているだけです。
日本正教会の教会暦は母教会であるロシア正教会に合わせてユリウス暦、つまりイエスがこの世にいた時代のローマと同じ暦を採用しています。
このユリウス暦と実際の地球の公転周期とのズレを調整し、1582年にローマ教皇グレゴリオ13世が採用した暦が、今日世界的に使われているグレゴリオ暦であり、両者は現時点で13日間ずれています。
このユリウス暦の12月25日が、今日のグレゴリオ暦では1月7日となるので、降誕祭も1月7日だというわけです。
また「(すべての)正教会は1月7日」という主張は、同じ正教会でも採用している暦がグレゴリオ暦の教会と、ユリウス暦の教会とが存在するので、正しくありません。
ユリウス暦を採用しているのは前出のロシアや日本の他、セルビアやジョージア正教会が該当します。一方、ギリシャやルーマニア、ブルガリアなどのバルカン諸国、あるいはアメリカ正教会(OCA)はグレゴリオ暦(正確には修正ユリウス暦という)を採用しています。よって彼らの降誕祭はカレンダーどおり12月25日です。
この辺りの「教会暦の違い」の話は1年ほど前に詳しく書いていますので、過去記事を貼っておきます。
大変興味深いのは、ロシアでは元日に花火を打ち上げたり、大晦日の晩に年越しのご馳走を食べたりして盛大に祝うのですが(私自身はロシアで元日を迎えたことはないので実際に見てはいません)、その元日とは世界共通の「グレゴリオ暦の1月1日」なのです。
ちなみにロシアの国の暦は帝政時代までユリウス暦が用いられており、ロシア革命後の1918年2月から共産政権によってグレゴリオ暦に変更されて今日に至っています。
降誕祭は元日より前の12月の祭であり、その降誕祭をユリウス暦で祝うなら、元日のお祝いもユリウス暦、すなわち1月14日にしなければ矛盾してしまうと思うのですが、なぜかロシア社会ではそうなっていないのが面白いところです。
このロシア革命以降の「降誕祭と元日の逆転現象」はクリスマスカードの文言にも反映されています。
一般的なクリスマスカードの文言は「Merry Christmas and Happy New Year!」と、メリークリスマスの方が先になっています。日付が元日より前だからです。
しかし、ロシアのクリスマスカードは「С Новым Годом и Рождеством!」と、「新年明けましておめでとう」に相当する「С Новым Годом」という文言の方が先になります。極端な場合、メリークリスマスに相当する「(С) Рождеством」という文言自体がなくて、サンタクロースが「新年明けましておめでとう」と言っているようなデザインも多いです(下の2枚目の画像)。
ちなみにギリシャのクリスマスカードは、メリークリスマスに相当する「カラ・フリストゥーゲナ」という文言の方が先です。ギリシャ正教会は前述のとおり、降誕祭はグレゴリオ暦に基づいて12月25日だからです。
正教会は当然ながら、世界のどこに行っても同じ教義を信じ、民族や言語の違いを超えて信仰において一致していますが、このように暦ひとつを取っても国や地域で違いがあり、それぞれの教会の個性を形成しているのです。そういう「信仰の一致と個性の尊重の両立」が正教会の特長であり、良さであると私は考えています。