九州の正教会

日本ハリストス正教会のグレゴリー神父です。2019年から九州全域を担当しています。

くまもと復興国際音楽祭

先週の木曜日、9月30日に熊本県北の山鹿市まで「くまもと復興国際音楽祭」の演奏会を聴きに行きました。

 

これはNHK交響楽団コンサートマスターのMAROこと、篠崎史紀氏を音楽監督とする熊本県内のクラシックのコンサートツアーです。

本来は昨年から始まるはずでしたが、コロナのため1年延期となり、今回が第一回となりました。

 

このイベントの発端は2016年4月の熊本地震に始まります。

2回の最大震度7の大地震熊本県内が壊滅的な打撃を受けたのは誰でもご存じのとおりですが、地震の翌月に「くまもと音楽復興支援100人委員会」が結成され、避難所や仮設住宅でのクラシックの慰問演奏会「音楽の炊き出しコンサート」が行われました。

そして地震から1周年の2017年4月14日、「熊本地震復興祈念コンサート」としてマーラー交響曲第2番「復活」が熊本県立劇場で演奏されました。その後、「復興祈念コンサート」では2018年にベートーヴェン「第九」、2019年にヴェルディの「レクイエム」が演奏されています。

この100人委員会が「くまもと復興国際音楽祭実行委員会」にリニューアルされ、今回の開催に至ったものです。

 

今回の演奏会のオケは九州交響楽団ハンブルクフィルハーモニー管弦楽団のジョイント。指揮者はハンブルクフィル音楽監督ケント・ナガノ氏が招聘され、最初の演奏会場も山鹿の「八千代座」と決まっていました。

熊本市のような都会でなく、山鹿のような山奥の田舎の、さらに演芸場みたいなところでなぜ、と思いましたら、日系三世のアメリカ人であるナガノ氏の祖父母が山鹿のご出身とのこと。つまり熊本県とゆかりのある海外のマエストロを呼び、さらにゆかりの地で演奏してもらうという趣向です。

しかし1か月ほど前、コロナによる入国規制のため、ナガノ氏とハンブルクフィルの奏者が日本に入国できないことになってしまい、急遽指揮者は三ツ橋敬子氏、オケも九響単体に変更になりました。

事務局から内容変更のため、チケットの払い戻しに応じる旨のメールが来ましたが、数少ない女性指揮者である三ツ橋氏での演奏を聴いてみたかったので、もちろん払い戻しはしませんでした。

 

演奏会場の八千代座は1910年に建てられた芝居小屋で、国の重要文化財に指定されています。

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重要文化財・八千代座

私が取った席は正面の升席。畳敷きです。

こういうシチュエーションでクラシックの演奏会を聴くのは初めてなので、始まる前からワクワクしました。

 

演目の1曲目はシュテファン・シェーファー作曲「YAMAGA」。

作曲者はハンブルクフィルの首席コントラバス奏者で、この音楽祭のための委嘱作品です。ご本人もオンステージするはずでしたが、上記のとおり入国できず、それは果たせませんでした。

弦楽合奏曲で、後期ロマン派的な曲想の静かで上品な作品でした。

 

2曲目はモーツァルトの「2つのヴァイオリンのためのコンチェルトーネ K190」です。

ヴァイオリンのソリスト篠崎史紀氏と、元ハンブルクフィルのコンサートマスターの塩貝みつる氏です。ちなみに塩貝氏は篠崎氏の弟子です。

これは初めて聴く曲だったのですが、モーツァルトが17歳の時の作品。二人のソリストの掛け合いと、さらにチェロとオーボエもソロで加わるので、四重奏曲とオケのジョイントのような面白い造りの曲です。

その実質4人のソリストたちのヴィルトゥオーゾな演奏が実に良く、引き込まれました。

 

最後はハイドン交響曲45番「告別」。

ハイドンが雇い主のエステルハージ公爵に、オケの楽団員の休暇を認めさせるために、第4楽章の演奏中に奏者がだんだんと退席してしまい、最後はヴァイオリン2人だけになってしまうという演出を加えていることで有名です。もちろん、こちらの演奏でもその演出は行われました。

もともとオペラの序曲の意味であった「シンフォニア」を拡大させ、今日の独立した音楽のジャンルとしての「交響曲」にしたのはハイドンです。この曲も演出を抜きにしても、従来のバロック音楽とは一線を画した重厚な音楽で、聴き応えがあります。

 

どのステージも、舞台のキャパの関係で室内楽的な小編成のオケでしたが、三ツ橋氏のきびきびしたテンポ感と九響のアンサンブルがじつに良く、大変満足のいく演奏会でした。

また、近代的なコンサートホールでなくて音響はどうかなと思っていましたが、八千代座は実に音響が良く、改めて日本の伝統的な芝居小屋の素晴らしさを実感しました。