2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件から、早いもので20年を迎えました。
このテロで2977人もの市民の命が失われましたが、米国の歴史上、南北戦争を除いて、米国本土でこれだけの人々が広義の軍事攻撃で亡くなったことはありません。
世界貿易センター(WTC)に最初の飛行機が突入した時、日本時間では22時少し前でした。ちょうど台風が近づいていたこともあり、たまたまテレビ朝日の「報道ステーション」を見たら、まさにWTCから煙が上がっている現場の中継が行われていました。
そのまま番組を見ていると、さらに二機目の飛行機がWTCに突入するところが「生中継」で映りました。ビルに飛行機が近づいてきて、そのまま吸い込まれるように建物に入って行き、後には穴が開いている光景が、何だか怪獣映画の特撮のように現実味のないものに見えました。それだけこの事件の特異性が、これまで見たことのないものだったからだと思います。
事件から20年ということで、この事件の詳報や、その後のアメリカの「テロとの戦い」の経緯は、国内外のいろいろなメディアで報じられるでしょうから、ここでは記しません。
ただこの時、WTCだけではなく、「WTCの隣に建っていた正教会」も倒壊したことはあまり知られていないかもしれません。
WTCの隣にはギリシャ正教会の聖ニコライ聖堂がありました。これは1916年建立、つまりWTCが1973年に建つずっと以前からそこにあった歴史ある教会です。
テロで炎上したWTCは崩壊して瓦礫の山となりましたが、聖ニコライ聖堂もその下敷きになりました。
教会の主管者であるギリシャ正教会アメリカ大主教区は、瓦礫が撤去された跡地「グラウンドゼロ」に新聖堂を建築することとし、工事が進められています。名称は「Saint Nicholas Greek Orthodox Church and National Shrine」です。
信徒のためだけでなく、広く911の犠牲者を追悼するための聖堂という位置づけです。
This church was destroyed on 9/11. Now it's reopening as a shrine to victims https://t.co/IQUIe6oAaZ
— 九州の正教会 日本ハリストス正教会九州管区 (@ocjkyushu) 2021年9月10日
以前見たネットニュースでは、911から20年となる今日、成聖式(竣工式に相当)が行われるとありましたが、残念ながら完成は間に合わなかったようです。
その代わり、現地時間の9月10日19時半(日本時間の本日8時半)から聖堂が初めてライトアップされ、911の犠牲者へのパニヒダがギリシャ正教会アメリカ大主教のエルピドフォロス座下によって献じられています。
9/11 Memorial Service and Lighting of Saint Nicholas Greek Orthodox Chur... https://t.co/WIKyuKoTXG @YouTubeより
— 九州の正教会 日本ハリストス正教会九州管区 (@ocjkyushu) 2021年9月10日
911テロは加害者側のアルカイダにとっても全く利益を生み出さないものであり、そのために多くの無辜の市民たちの命が奪われました。さらにその後の米国のアフガニスタン侵攻の巻き添えで、アルカイダやタリバンと無関係な現地人の命が失われたことも合わせると、犠牲者は何万人にも上るでしょう。
グラウンドゼロにおいて今後も長くこの悲劇を記憶し、理不尽に命を奪われた多くの人々を追悼する場を、カトリックでもプロテスタントでもなく、アメリカではマイナーな正教会が担うことになったのです。正教徒の一人として、大変感慨深く感じています。