九州の正教会

日本ハリストス正教会のグレゴリー神父です。2019年から九州全域を担当しています。

防災の日 教会も火の用心が大切

今日は防災の日です。

これは防災意識向上のため、大正12年(1923)の関東大震災の発生日である9月1日を、1960年に国が「防災の日」と定めたものです。

 

ちょうど20年前の防災の日、2001年9月1日未明に新宿・歌舞伎町の雑居ビルで火災が発生。44人が亡くなりました。

当時、私は会社員で、土曜日はほぼ毎週、早朝から趣味の海釣りに出かけていました。この時も夜明け前に家を出て車のラジオをつけると、ずっとこの火事のニュースを流し続けていて、とんでもないことが起きたと思いました。

 

犠牲者の人数としてはわが国で発生した火災で5番目です。上位の4件はデパートとホテルであり、より大きくて多くの人がいる環境だったのに対して、この火災は比較的小さな建物でした。

原因は不明ですが、放火が濃厚とのこと。もし放火だとすると、2019年の京都アニメ放火殺人事件の死者36人を上回る、わが国史上最悪の殺人事件ということになります。

この火事では、各階の階段にゴミが出ていてそこから火が回り、人々が逃げ出せずに犠牲になりました。不特定多数の人が集まる建物の防火について考えさせられる出来事だったのですが、今はその教訓は生かされているのでしょうか。甚だ疑問に思っています。

 

さて、上記の関東大震災ではニコライ堂も被災し、外壁を残して全焼しました。信徒も多数亡くなっています。

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関東大震災で全焼したニコライ堂

敷地内には創建当時から他にも建物があり、現在も使われていますが、全てこの時に焼失し、後に再建されたものです。

現在のニコライ堂は震災から6年後、1929年に再建されましたが、その間、本部機能を喪失した日本正教会は大変な苦労を強いられました。

 

また、2011年の東日本大震災では岩手県山田町の山田ハリストス正教会が被災。津波は免れたものの、町内を焼き尽くした大火で聖堂は内部の山下りんのイコンもろとも、灰燼に帰しました。

私は震災翌々年の2013年9月に山田町を訪れましたが、未だに町全体が広大な更地のようで、聖堂が建っていた場所に目印の十字架が寂しく立てられているのを見た時は胸が塞がる思いがしました。

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全焼した山田ハリストス正教会の跡地(2013年9月)

 これらの教会の火災は震災という、ある意味不可抗力によるものですが、失火による火事も大きな損失をもたらします。

特に2019年4月のパリ・ノートルダム大聖堂の火災は世界に衝撃を与えました。

この火事の原因は不明ですが、修復工事中だったため、工事業者の何らかの不手際による失火と考えられています。

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炎上するパリ・ノートルダム大聖堂(2019年4月)

 

正教会の場合は、聖堂が石や鉄筋コンクリートだったとしても、内装は木と布ばかりですし、聖堂内に大量のロウソクを立てる習慣があり、備品がいつも直火にさらされているので、より火災のリスクが高いです。

 

私の管轄教会では消火器を複数個、聖堂内と信徒会館に設置し、万一火が出た時は初期消火できる態勢にしています。しかし、教会の火事のほとんどは人が見ていない時に起こるのも事実です。

実際、海外の正教会で一番火事が発生するのは「復活祭の祈祷後」です。夜中に開式して日の出近くまで、ロウソクを灯して長時間の祈祷が行われ、終了後はイースターパーティーなどが行われるので、緊張感がなくなってロウソクを消し忘れるのが原因です。下の写真は2016年5月、復活祭の祈祷後に出火して全焼したニューヨークのセルビア正教会です。

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復活祭後に全焼したニューヨークのセルビア正教

そのようなわけで、私もとにかく祈祷が終わって聖堂を施錠する時に、聖堂内のロウソクと、香炉の炭の火を完全に消したか、信者任せでなく自分自身が怠りなくチェックしています。

 

建物が火事になったら保険金は下りるかもしれません。教会が無人なら被害者も出ないでしょう。しかし教会の中にあるイコンなど、聖器物に値段はつけられないのです。そういう「大切なもの」が失われないよう、教会の火の用心には今後も気をつけていきたいと思っています。