九州の正教会

日本ハリストス正教会のグレゴリー神父です。2019年から九州全域を担当しています。

カール・ベーム没後40年

8月11日から降り始めた大雨も、今日で四日目を迎えました。

今は雨雲の中心は同じ九州でも北西部の方へ移っていて、72時間で8月1か月分の3倍の雨を降らせています。熊本県内も2倍超です。

来週以降も降り続くようで今後が心配です。

 

さて今日は1981年8月14日に、大指揮者のカール・ベームが永眠してちょうど40年となる日です。

 

私は小学生の頃からクラシック音楽を聴くのが好きでしたが、小5だった75年3月のベームウィーンフィル(VPO)の来日公演は、間違いなく完全に私のクラシック好きを燃え上がらせました。

当時、わが国はまだクラシック向きの良いコンサートホールがない時代で、この公演もなんと紅白歌合戦と同じNHKホールで行われたのですが、NHKは連日この公演を放送しました。当時のテレビはまだステレオ放送などなく、普通のテレビ音声でしたが、それでもかじりつくように視聴しました。

幸いなことに現在は当時の映像と音声をYouTubeで視聴できますが、今聴いてもこの75年来日公演のベームとVPOの演奏は、ベートーヴェンブラームスといったドイツ・オーストリア系音楽の一つの模範演奏のように私は思います。

 

これは75年3月17日に演奏されたブラームス交響曲1番のライブ録音動画です。

最近の指揮者はかなり速く演奏する傾向にありますが、第一楽章の速過ぎず遅過ぎずのどっしり感といい、第四楽章のレガートを多用し、川の流れが迫ってくるような圧力の出し方といい、この曲の史上ベスト演奏の一つではないかと思っています。

この時、ベームは80歳ですが、指揮している本人もかなり熱気がこもっているように感じられます。


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 ベームは日本が気に入ったようで、その後77年、80年と立て続けに来日しました。

私はテレビでしか視聴していませんが(当時中高生ですからライブでVPOを聴きに行くなんて到底無理)、ベームは年を追うごとに体の衰えが進んでいたせいか、75年の時ほどの鮮烈な印象には乏しかったように思いました。以前よりは音楽がちょっと緩慢になって来たという感じでしょうか。しかし、もちろんベームとVPOですから、演奏のレベル自体はとても良かったです。

 

これは80年10月6日、完成直後の人見記念講堂で行われたベームとVPOによるベートーヴェン交響曲7番のライブ動画です。

ベームが亡くなる前年で、これが1938年から彼が振ってきたVPOとの最後の演奏になりました。

本番中も椅子に座ったままで、もともと動きの少ない指揮がさらに緩慢になっていて、ちょっと痛々しくも見えるのですが、死力を振り絞ってベートーヴェンに向き合っているように私には思えてなりませんでした。


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ベームの指揮による録音はたくさん持っているのですが、自分が特に気に入っている演奏のものをご紹介しておきます。

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私の愛聴盤・ベーム指揮による演奏

写真の左上は63年から71年にかけてのベルリンフィルBPO)による「シューベルト交響曲全集」。

シューベルトは「歌曲王」だったわけですが、そういう歌心がよく表わされていて心地よく聴けます。どれも良い演奏ですが、特に5番と8番「未完成」が秀逸です。

 

右上は60年代にBPOと演奏したモーツァルト交響曲全集から、有名な9曲だけ抜粋した「モーツァルト九大交響曲集」。

どれもメリハリがあって素晴らしい演奏です。特に41番「ジュピター」が良いです。

 

左下は75年にVPOと演奏したブラームス交響曲4番。

ベームの指揮によるブラームス交響曲は4曲とも録音を持っていますし、「一つの模範演奏」と書いたようにどれもとても良いのですが、4つから1枚選べと言われたら私はこの4番を挙げます。

緊張感のみなぎった第一楽章を過ぎて、第二楽章の第二主題をチェロが歌うように弾き始めると、それまでの緊張感が解き放たれて魂を揺さぶられます。それから第三楽章がスケルツォをドンチャカと奏でた後、また第四楽章でぐっと締め付けてきます。そういう楽章間の曲想の色分けが実に見事な演奏です。

 

右下は73年にVPOと演奏したブルックナー交響曲4番「ロマンティック」。

ブルックナーは私の大好きな作曲家の一人ですが、昔は曲が長いばかりでどこが良いのかさっぱり分かりませんでした。

その印象を変えたのがこの演奏です。

冒頭のホルンのソロは、ブルックナーベームの故郷のオーストリアの山並みから朝日が昇ってくるような清々しさ(実際に見たことはありませんが)。いきなり虜になってしまう感があります。

ロマンティックはあまりブルックナーぽくない(?)曲ではあるのですが、この盤を聴いて初めて「ああ、ブルックナーっていいな」と思い、今に至っています。

 

どのCDも30年ほど前に買ったものばかりです。当時のCDは1枚3000円くらいしましたので高い買い物になりましたが、良い音楽、良い演奏というのは不滅の価値があると考えています。そういう意味では、半世紀も前のベームの演奏を今も聴くことができるのは、大きな財産だと思っています。