九州の正教会

日本ハリストス正教会のグレゴリー神父です。熊本県人吉市から情報発信しています。

主の昇天は復活祭の「千秋楽」

本日、6月10日は5月2日の復活大祭から40日目。キリストの昇天を記念する「主の昇天祭」です。 

復活大祭は必ず日曜日と決まっていますので、必然的に昇天祭は木曜日となります。一般論として人々が教会に来るのは平日より日曜日の方が多いので、どうしても昇天祭は復活大祭や聖五旬祭ペンテコステ)など、日曜日の祭日と比べて影が薄くなりがちです。

 しかし、主の昇天は「主の復活の締め括り」という意味において、極めて重要な出来事です。

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山下りん「主の昇天」


 

 聖書の記述によれば、キリストは復活してから「ご自分が生きていることを、数多くの証拠をもって使徒たちに示し、四十日にわたって彼らに現れ、神の国について話された」(使徒1:3)とあります。しかもキリストに会ったのは、パウロが「(復活したキリストは)ケファ(ペトロ)に現れ、その後十二人に現れたことです。次いで五百人以上の兄弟たちに同時に現れました」(コリント前15:5-6)と書いているように、かなりの人数に上っています。

 

このようにキリストが復活して、40日という長期にわたり、多くの弟子たちの前に現れたのはなぜでしょうか。

それは彼らに「死からの復活はファンタジーではなく、事実であると知らしめる」ためです。

キリストの復活が判明したのは十字架上の死から三日目、つまり翌々日の朝にマグダラのマリヤをはじめとする女弟子たちが墓に行き、中が空になっているのを発見した時です。もし、後でキリストが現れなければ、彼の処刑を推進した人々の「弟子たちが夜中にやって来て、我々(番兵)の寝ている間に死体を盗んで行った」(マタイ28:13)という主張が通ってしまいます。

また現れるにしても、ごく一部の弟子だけに一回現れたくらいでは、「夢や幻」「何かの見間違い」「作り話」といった評価をされかねません。

 ですから、キリストは多くの弟子に40日にわたって、時には何度も現れることで、イエスがキリスト(救世主)であり、復活は事実であることの証人にならしめたわけです。

 

キリストが昇天したのは、この「復活は事実であると知らしめる」という「この世での任務」を完了し、神の「本来の居場所」である天に帰ったことを意味します。

教会も復活大祭(パスハ)において、キリストの復活を記念するのですが、祭はその一日で終わってしまうのではなく、40日間続いているものとしています。そしてその40日の復活祭の締め括りが「主の昇天祭」だというわけです。

 

わが国の伝統的なエンタテインメント、特に歌舞伎や大相撲では、連続した興行期間の最終日を「千秋楽」と呼び、「初日」と並ぶ最も重要な日としています(今は一般の演劇やコンサートの連続公演でも千秋楽という言葉を使うようですが)。

実際、大相撲を見ていると、協会理事長の挨拶が行われるのは初日と千秋楽と決まっており、他の日にはありません。

これを主の復活に置き換えるならば、復活大祭は復活祭の「初日」、昇天祭は「千秋楽」なのです。

地上のエンタテインメントはどんなに盛り上がってもこの世限り、一時だけの楽しみでしかないが、復活への信仰を通して得られる自らの復活は、天国における永遠の楽しみに繋がる。これがキリスト教の考えです。

その意味で「復活祭の千秋楽」である主の昇天祭も、これまでの影の薄い扱いから脱却させなければと思っています。