熊本県宇城市の三角西港は1887年(明治20年)に開港した港で、2015年に「明治日本の産業革命遺産」としてユネスコの世界遺産に登録されました。
日本最古の近代的港湾の一つであり、しかも明治時代当時のまま現存している港は日本でここだけです。埠頭や水路は国の重要文化財にも指定されています。
港には明治大正期に建てられたレトロな建物が並んでいます。
1893年に小泉八雲が泊まった旅館「浦島屋」は、日露戦争後の1905年に旅順に移築されて失われてしまいましたが、当時の写真をもとに1993年に再建されました。貴族の館のようです。
明治時代に浦島屋があった跡地には、1918年に明治天皇記念館として龍驤館(国有形文化財)が建てられました。龍驤とは、明治5年に明治天皇が三角に行幸したときに乗っていた軍艦の名前です。
開港した時に建てられた高田回漕店は、汽船4隻を持つ豪商で、店の二階には床の間付きの客間が三部屋ありました。
港から100mほど山側に上がると、ここにも歴史的建造物が。
1890年に建てられた旧三角簡易裁判所(国有形文化財)は1992年まで実際に使われていました。
旧簡裁の隣にある旧宇土郡役所は1902年に建てられ、こちらは何と現在も九州海技学院の校舎として使用されています。
三角港は1899年に鉄道が東港まで敷設されたことで、港の機能も東港に移って西港は廃れました。しかし、皮肉なことにその結果、三角西港の古き良きものは今日まで残されたのです。
素晴らしいのは、西港の建物群は観光のために新しく造られたり、どこかから移築して集めたものではなく、つい最近まで(あるいは現在も)使われてきた「生きた歴史の証人」であることです。しかも、龍驤館以外は無料で開放されています。
歩いているだけで明治時代にタイムスリップしたような気分になれる街であり、最近NHKドラマ「坂の上の雲」のロケ地に選ばれたのも納得できます。