九州の正教会

日本ハリストス正教会のグレゴリー神父です。2019年から九州全域を担当しています。

亜使徒聖ニコライ祭にあたって~私たちの宗教は「キリスト教」であって「ロシア教」ではない

本日は亜使徒聖ニコライ祭。1912年2月16日、日本に東方正教会キリスト教を伝えたニコライ・カサーツキン大主教が永眠、1970年に列聖されたことで「永眠日」から「聖人の祭日」となりました。

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使徒聖ニコライ

わが国では私たちの信仰する宗教を「ロシア正教」、ひどい人は「ロシア教」などと呼んだりするのですが、正しくありません。

東方正教会キリスト教を、中世にロシア人(正確にはルーシの人々)が受け入れたのであって、正教会はロシアの土着宗教ではありません。わが国はキリスト教史がきちんと教えられていないためか、どうもその辺りの誤解があるようです。

私たちが信仰しているのは、あくまでも「キリスト教」です。「東方正教会」という呼称も、「ローマ・カトリック教会」や「プロテスタント教会」とは「教会」が異なるので、それと区別するために名乗っているだけです。「ロシア正教会」という呼称は「ロシア(正確にはルーシ)における東方正教会」を意味する組織名であって、宗教名ではありません。

 

ニコライ大主教自身は人種はロシア人であり、国籍はロシア帝国、存命中の役職もロシア正教会所属の東京大主教でした。

しかし、彼はキリスト教は普遍的・世界的な宗教であることを理解していました。ですから日本で宣教するにあたって、ロシアの言語、ロシアの文化を押し付けるのではなく、自らが日本語を学び、聖書も祈りも日本語に翻訳しました。また、ロシアから宣教師を連れて来るのではなく、日本人を育成して宣教させたのです。

つまり、ニコライは自分自身のアイデンティティを日本人の側に近づける努力をしたということです。

欧米列強諸国の人々の多くは、鎖国を解いたばかりの極東の島国・日本を自分たち白人よりも劣ったものと考えていたはずです。ですから、日本人の文化や言語に自分から歩み寄る人は稀だったと考えます。しかし、ニコライはそう考えていなかったわけです。

 

ちなみに今日、ツィッターを見ていたらモスクワの教会で日本語による亜使徒聖ニコライ祭の祈祷が行われたとありました。

 

司祷したゲラシム掌院(掌院とは修道院長を意味するアルヒマンドリトの邦訳。修道司祭の最高位)は、私が神学校に入った年の2005年に来日し、ニコライ堂に奉職しながら日本に正教会修道院を開設するための顧問的な勤めをして来られました。私自身も神学校でゲラシム師からロシア語の授業を受けています。

2019年に教団が修道院設立計画を凍結したため、ゲラシム師は志半ばでロシアに帰国を余儀なくされて、私自身は教え子の一人として大変残念な思いをしました。

しかしロシア人であるゲラシム師が故国のロシアに戻ってから、聖ニコライが翻訳した日本語の祈祷文でその聖ニコライへの祈祷を奉事したというニュースを見て、ロシアと日本とをキリスト教という共通の信仰で結びつけようとした聖ニコライの遺志は、しっかりと生きているなあと感無量の思いでした。

 

日本人が日本人に分かるように、日本語で教えと祈りを伝える。その結果、ロシア人やその他の民族と、同じ東方正教会の信仰を分かち合える…これが日本に宣教した聖ニコライの理念だったのであり、それを私も受け継いでいきたいと思っています。