九州の正教会

日本ハリストス正教会のグレゴリー神父です。熊本県人吉市から情報発信しています。

暦のズレ・教会の祭日のズレ~正教会ならではの話

今日は立春。昨日は節分でした。

自分の感覚としては立春は2月4日、その前日の節分は2月3日であって、それが「常識」だと思っていたのですが、どうやらそうではなかったようです。

今回、立春の日が1日ずれたのは1897年以来124年ぶりとのことですが、その理由について朝日新聞に書いてありました。

要するに地球の公転周期365.2422日に対して、実際の公転日数が微妙にズレており、調整したとのこと。

次に立春が2月3日になるのは2025年だそうで、以後頻発してくるとありました。

 

今日世界的に使われている暦はグレゴリオ暦ですが、これはまさに地球の公転周期と従来使われていた暦とのズレが生み出した新しい暦です。そして、このグレゴリオ暦の誕生で教会(特に東方正教会)の暦も影響を受けました。

 

グレゴリオ暦以前、ヨーロッパで使われていた暦はユリウス・カエサルが紀元前45年の元日から施行した「ユリウス暦」でした。これは1年を365.25日とみなし、4年に一回、1年が366日となるうるう年を設けるものです。

エスがこの世におられた1世紀も、ローマ帝国キリスト教を公認した4世紀も、キリスト教会が東西に分裂した11世紀も、社会も教会も正式な暦は全てユリウス暦だったのです。

 

ところが、ユリウス暦が前提としている1年の日数は、実際の地球の公転周期より0.0078日多くなっています。その結果、カエサルの時代から1000年以上経過した中世において、「暦の進みすぎ」が問題になってきました。

具体的には春分の日は3月21日とされていましたが、実際に「昼と夜の長さが同じ日」は16世紀には10日間もズレてしまったのです。

春分の日はその年の復活祭の日にち(春分の日の後の満月の日の次の日曜日)を決定する基準日ですから、これをカトリック教会は重大な問題ととらえました。

そのためバチカンは1年の日数の再計算を行い、1年を365.2422日とするグレゴリオ暦が制定されました。実際の施行にあたっては、ユリウス暦の「進みすぎ」を修正するため、ユリウス暦の1582年10月4日の翌日をグレゴリオ暦の10月15日とする、つまり暦の上で10日間カットすることでスタートしました。

グレゴリオ暦ユリウス暦よりも1年の日数の端数処理が多くなった結果、100年に一度(西暦1800年や1900年)は4で割り切れる年だがうるう年ではない、しかし400年に一度(1600年や2000年)はうるう年とする、など多少扱いが複雑になっています。

もっとも、これはカトリック教会が制定した暦であるため、宗教改革後にプロテスタントに転じた諸国は採用せず、西欧の全ての国がグレゴリオ暦で統一されたのは1753年のことです。

国教が正教会であったロシアに至っては、ユリウス暦を廃してグレゴリオ暦になったのは革命後の1918年です。

 

現在(2000年代)では、ユリウス暦グレゴリオ暦とは13日ズレています。そのため、正教会においてもユリウス暦を採用している教会(旧暦派教会)とグレゴリオ暦を採用している教会(新暦派教会)とでは、同じ祭日が13日ズレる結果となっています。

一番分かりやすいのは12月25日のクリスマス(降誕祭)です。旧暦派教会ではユリウス暦の12月25日、すなわちグレゴリオ暦の1月7日がクリスマスとなります。

西欧に起源を持つ教会、すなわちカトリック教会とプロテスタント教会は、どちらも全てグレゴリオ暦を採用していますから、こういう「祭日のズレ」問題は生じません。

その辺りのことは、当ブログでも過去に書いています。

 

frgregory.hatenablog.com

 

ちなみに本日2月3日は、新暦派教会(アメリカやギリシャなど)では日本に正教会を伝えた亜使徒聖ニコライ(日本の大主教ニコライ・カサーツキン)の祭日です。

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使徒聖ニコライの肖像写真(日本正教会所蔵)


しかし、実際にニコライが永眠したのは1912年2月16日ですので、日本やロシアなどの旧暦派教会では永眠日の2月16日が祭日です。

つまり新暦派教会の考え方は、聖ニコライが永眠した2月16日はユリウス暦の2月3日だから、それをそのままグレゴリオ暦の2月3日に記念する、ということです。

結果として、教会がグレゴリオ暦を採用したことで、「グレゴリオ暦での実際の永眠日」と、教会での記念日がズレるという矛盾が生じてしまいました。

アメリカ人が「St. Nicholas of Japan, pray for us!」(日本の聖ニコライよ、我らのために祈り給え)なんて書いているのを見ると、「永眠したのは今日じゃないんだけどなあ…」などと思ってしまいます。

 

カトリックプロテスタントの皆さんには分かりにくい、正教会ならではの「祭日のズレ」問題のお話でした。