クリスマスが近いということで、キリスト教の教会ならどこでも準備に余念がないことでしょう。
私も司祭に叙せられて12年目の降誕祭になるのですが、こうして正教会で牧会していると、ずいぶん降誕祭についての誤解があるなあと思います(クリスマスはキリストの降誕を祝う祭とは知らなかったとか、そういうアホなレベルはここでは論外)。もっとも、自分も正教徒になる前はちゃんと分かっていなかったのですが…
そこで、その誤解の中から三つ取り上げてみます。長くなるので三日間の連続投稿にします。
今日は「正教会のクリスマスは『カトリックやプロテスタントと異なり』1月7日である」という誤解についてです。
これに加えて、その根拠として「正教会は『カトリックやプロテスタントと異なり』、主の降誕を公現祭(1月6日)に祝う」などと、まことしやかに書いてあるのを読んだこともあります。
世界の正教徒の約7割はロシア正教会(正確にはモスクワ総主教庁)の所属であり、確かにロシア正教会では降誕祭は1月7日です。日本正教会もモスクワ総主教管下の自治教会、すなわち広義のロシア正教会の一員ですので、やはり降誕祭は正式には1月7日です。
しかし、だからといって公現祭が降誕祭なら、何で1月6日でなくて7日なんだよ、とツッコミたくなります。要するにこじつけです。
ちなみに正教会でも公現祭(日本正教会用語では神現祭)は降誕祭と別の祭日として、ちゃんと存在します。
また、正教徒の側にも「私たちはカトリックやプロテスタントと違って『ホンモノ』の教会なんだから、クリスマスは12月25日ではなく1月7日が正しいのよ!」などとドヤ顔で言う人がいたりします。
結論から言うと、これらは「教会暦への無知」に基づく誤解です。
要するに降誕祭は「12月25日」に変わりはないのだが、何の暦の12月25日なのかによって違いが出てくるということです。
正教会には現在、世界で15の独立教会と呼ばれる組織があります。その独立教会によって教会暦にユリウス暦を採用しているところと、現在一般のカレンダーで使用されているグレゴリオ暦(正確には修正ユリウス暦)を採用しているところがあります。
ユリウス暦とは、紀元前45年にユリウス・カエサルが制定したローマの暦です。イエスが降誕された時代も、キリスト教がローマ帝国で公認された4世紀も、正式な暦はユリウス暦でした。
このユリウス暦は1年を365.25日とする太陽暦ですが、地球の公転日数とは微妙なずれがあるため、中世には春分の日などが大きく狂ってしまいました。そこでローマ教皇グレゴリオ13世が修正した暦がグレゴリオ暦です。ちなみに現在から2099年までは、両者は13日ずれています。
カトリック教会が制定した暦ということで、宗教改革以降はプロテスタント諸国で不採用の国も多く、西欧諸国がユリウス暦を廃止し、グレゴリオ暦で統一されたのは18世紀後半のことです。ロシア帝国は20世紀の共産革命後、ソ連政権がグレゴリオ暦を採用するまでユリウス暦のままでした。
そのような背景もあり、世界の正教会にはロシア正教会のようにユリウス暦を採用している独立教会と、ギリシャ、ルーマニア、アメリカなどのようにグレゴリオ暦を採用している独立教会とがあるのです。つまり、ギリシャやルーマニアは「どこに行っても正教会ばかり」の国ですが、降誕祭はカレンダー通り12月25日です。
この結果、ロシアなどのように一般社会のグレゴリオ暦のカレンダーと、ユリウス暦の宗教暦との二重使用になっている社会では、年末の祭であった降誕祭が新年を祝う祭に性格が変化しています。
こういう「文化の違い」について、背景をしっかり理解することは大切だと考えます。
そして何よりも、正教徒の側もカトリックやプロテスタントの皆さんも、表面的な理解で「正教会は特別だ」という変な決めつけをしないで、皆それぞれ純粋にキリストの教えを正しく追求する集団であってほしいと願っています。