九州の正教会

日本ハリストス正教会のグレゴリー神父です。熊本県人吉市から情報発信しています。

真の希望について~草刈り作業と私

私は2008年に神学校を卒業して、家族と暮らすようになってからは、毎朝NHK連続テレビ小説を見ています。サラリーマン時代は始業の1時間前の8時には出社していましたから、その頃と比べるとライフスタイルが激変ということになります。

 

今やっている『エール』も第一回から(コロナで放送中止期間は再放送も)視聴しています。

今日の『エール』では吉岡秀隆演じる永井博士(劇中では永田)がこんなセリフを言っていました。

 

「自分の身を振り返っとるうちは希望は持てません。どん底まで落ちて、大地を踏みしめ、共に頑張れる仲間がいて、初めて『真の希望』は生まれるとです」

#『エール』“永田医師”吉岡秀隆が説く“真の希望”に共感の声「胸に刺さった」(クランクイン!)#Yahooニュースhttps://t.co/UgWK8iiZyH

 

私は文学や映像に感情移入することはめったになく、これも脚本家が書いた芝居のセリフだと分かっているのですが、不覚にも涙が溢れてしまいました。

人吉に来てからの自分のことを言われたように思ったからです。

 

私も妻も東京出身で、信徒としての所属教会も横浜でしたし、神学校を出た後も教団本部に近い位置で奉職してきました。

昨年、全く唐突に東京から一番遠い人吉への異動を告げられたのですが、そのことは私ではなく周囲の方が驚いたようです。

というのも、過去九州を司牧してきたのは、これから教会の仕事を覚える立場の新任や若手司祭か、地元に定住している信者で定年後に司祭に叙せられた人かのいずれかで、東京教区から中堅の司祭が赴任するという前例がなかったからです。

私としては、残念なことに前任地でいろいろな嫌がらせに晒され続けていましたので(今だから書けるのですが)、この異動をむしろ喜び、ゼロからのスタートだと思って夫婦ともども希望に満ちて赴任しました。

 

九州に来てみると、地元の人々はフレンドリーで環境も素晴らしく、生活は満足のいくものでしたが、人が少なすぎました。

何度も書きましたが、人吉教会の敷地は600坪あり、9月に下見に来た時は膝の高さまで草が生い茂って、お化け屋敷のようでした。

私は教会が草ぼうぼうでは、人を迎えられないと思い、自分で機材を買って敷地の草刈りを始めました。

しかし、そうやって教会を綺麗にしても、日曜の祈祷に来る人は二人か多くても三人…お祈りしている時間より、草刈りしている時間の方が圧倒的に長い生活になりました。

 

「自分に神父ではなく、空き地の管理人の仕事をさせるために、こんな遠くまで飛ばしたのか。主教の自分への評価は所詮そんなレベルだったのか。これが左遷ということか」などという変な思いが胸の中にモヤモヤ立ち込めてきたタイミングで水害発生…

何もかも破壊され、泥の中で廃墟と化した人吉の市街地を見て、「自分がここに来た意味あった?」と一気に虚しくなり、絶望感で一杯になりました。

 

しかし、被災した人々が必死に瓦礫の山を片付けているのを見て、妻も自分もやれることをやってみようと試行錯誤しているうちに、共に助け合う人の輪に加わり、多くの方々との絆が生まれました。

聖職者であるにも関わらず、そして自分自身は被災していないにも関わらず、勝手に自分のことを悲劇の主人公みたいに思っていたのが今となっては本当に恥ずかしいです。

 

水害から三か月経って、実感としても復興はとんでもなく遠い道ではあるのですが、自分もその道を人々と一歩ずつ歩いていると思うと絶望ではなく希望が湧いてきます。

 

明日は被災ママさん&ベビーの集いの第二回が行われます。

皆さんをお迎えできるよう、今日は三時間以上かけて教会の境内を芝生みたいに綺麗に刈りました。

少しでもこの教会に来て、明るい気持ちになってもらえたら、それだけで嬉しいですね。

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今日の草刈り作業完了!